Pega Customer Decision Hub とは|NBA の仕組み

Pega Customer Decision Hub は、顧客一人ひとりに対して「いま提示すべき最適な行動」をリアルタイムに選ぶ意思決定の基盤です。キャンペーン型との違い、Action・Engagement Policy・Arbitration・Adaptive Model などの構成要素、1 回の判定の流れ、体制と導入時に最初に決めることを、全体像として整理します。

Customer Decision Hub とは

Pega Customer Decision Hub(以下 CDH)は、顧客一人ひとりについて「いま、このチャネルで、何を提示するのが最適か」をリアルタイムに判断する、Pega の意思決定基盤です。Pega 自身は CDH を、マーケティングの仕組み全体の中心にある判断エンジンであり、顧客の状況を分析し続けて最も関連性の高い次の行動(Next Best Action)を推奨するもの、と説明しています。

一言でいえば、CDH は「配信ツール」ではなく「判断の置き場所」です。どの顧客に何を出すかを、チャネルごとの仕組みに散らさず 1 か所で決め、Web・メール・コンタクトセンターなどのチャネルはその結果を受け取って届ける、という役割分担になります。

本記事は、Pega Academy の Customer Decision Hub ‘26 向け教材を中心に、公式資料で確認できる範囲で全体像を整理します。画面名や細かな設定項目はバージョンによって変わるため、実装時は利用中のバージョンのドキュメントで確認してください。

Pega Platform・Customer Service との関係

CDH は Pega Platform の上で動く製品です。ケース管理やルールエンジンと同じ基盤の上にあるため、意思決定の仕組みをケース業務やコンタクトセンター業務から呼び出す構成が取りやすくなっています。Pega Platform そのものの位置付けは「Pega(Pega Platform)とは?」で整理しています。

Pega Customer Service との関係でいうと、CDH は Customer Service に追加して使える意思決定の部品です。コンタクトセンターのオペレーター画面に、CDH が選んだ次の行動(解約防止の提案、手続きの案内、関連商品のご案内など)を表示させる構成が代表的です。Customer Service がケース(問い合わせや手続き)を進める仕組みを持ち、CDH が「この顧客にいま何を勧めるか」を決める、という分担です。

  • Pega Platform — ケース管理・ルール・データ・UI の共通基盤
  • Pega Customer Service — 問い合わせ対応を進めるための業務アプリケーション(詳しくは「Pega Customer Service とは?」)
  • Customer Decision Hub — どの顧客に何を提示するかを決める意思決定の基盤

コンタクトセンターの業務改革の中で NBA をどう位置付けるかは、「コンタクトセンター DX の進め方」もあわせてご覧ください。

Next-Best-Action の考え方(キャンペーン型との違い)

従来のキャンペーン型の施策は、「この商品を、この条件の顧客リストに、この期間に送る」という商品起点の設計です。施策ごとに対象リストを作るため、同じ顧客に複数のキャンペーンが重なったり、直前に苦情を入れた顧客に販売メールが届いたりすることが起きやすくなります。また、メールの仕組みとコンタクトセンターの仕組みが別々に判断していると、チャネルによって言うことが変わってしまいます。

Next-Best-Action(NBA)は、これを顧客起点に組み替える考え方です。顧客との接点が生まれるたびに、提示しうるすべての行動を候補に並べ、その顧客にとっての関連性と事業側の優先度を比べて、最も適切なものを選びます。候補には販売の提案だけでなく、解約防止の働きかけや手続き漏れの案内など、サービス目的の行動も含めます。Pega の教材は、従来のチャネル別の判断の仕組みが連携しにくく、商品を押し出す方向に寄りがちであるのに対し、CDH は 1 対 1 のエンゲージメントで顧客のニーズを先回りする、と対比しています。

両者の違いを整理すると次のようになります。

  • 起点 — キャンペーン型は商品と対象リスト、NBA は顧客と接点
  • 判断のタイミング — キャンペーン型は事前に一括、NBA は接点ごとにリアルタイム
  • チャネルの扱い — キャンペーン型はチャネルごとに判断、NBA は 1 か所で判断して各チャネルに届ける
  • 学習 — NBA では顧客の反応がモデルに戻り、次の判断に反映される

構成要素

CDH を理解するうえで押さえておきたい要素を、役割ごとに整理します。

Action(アクション)と Treatment(トリートメント)

Action は、顧客に提示しうる「行動」の単位です。クロスセルやアップセルの提案、解約防止の特典、関係を深めるためのメッセージなどが該当します。Action は Issue(目的) と Group(分類) の階層で整理され、Pega はこれを Business Structure(ビジネス構造)と呼んでいます。たとえば「関係を深める」という Issue の下に「クレジットカード」という Group を置き、その中に個々のカードの提案を Action として並べる形です。

Treatment は、同じ Action をチャネルごとにどう見せるかの表現です。同じカードの提案でも、Web のバナー、メール、オペレーターの台本ではふさわしい見せ方が違います。Action が「何を」、Treatment が「どう見せるか」を担います。

Engagement Policy(エンゲージメントポリシー)

Engagement Policy は、どの顧客がどの Action の対象になるかを決める業務ルールの集まりです。Pega は 3 つの区分を用意しています。

  • Eligibility(適格性) — 提供できるかどうかを決める、最も厳格な条件。年齢や契約の有無など
  • Applicability(適用性) — 顧客のいまの状況に照らして、提示する意味があるか。すでに同種の商品を持っている顧客を外す、など
  • Suitability(適合性) — 倫理面・顧客への配慮から、提示すべきでない場面を外す、最も緩やかな条件

これらは Group 単位と Action 単位で設定できます。どの区分に条件を置くかは、後から「なぜ出なかったのか」を説明するときの分かりやすさに直結します。

あわせて、Constraints(制約) として、同じ顧客に同じ提案を出しすぎないための接触ルール(一定回数表示したら一定期間止める、など)も設定します。

Arbitration(アービトレーション)

Engagement Policy を通過しても、顧客が複数の Action の対象になることは普通にあります。そこで候補に順位を付けるのが Arbitration です。Pega は優先度を、次の 4 つの数値の掛け算で求めると説明しています(P×C×V×L)。

  • Propensity(P) — 顧客がその Action に前向きに反応する確率。AI が算出します
  • Context Weighting(C) — その場の文脈による重み。解約の相談で連絡してきた顧客には、解約防止の Issue を優先する、など
  • Business Value(V) — Action に事業上の価値を割り当て、価値の高いものを優先する
  • Business Levers(L) — 市場環境や事業方針に応じて、事業側が優先度を意図的に上げ下げするための調整

掛け算である点が重要です。どれか 1 つが極端に大きい、あるいは小さいと、残りの要素の効きが見えにくくなります。特に Business Levers は便利な反面、使いすぎると AI の予測が順位にほとんど反映されなくなるため、期間や目的を区切って使うのが基本です。

Adaptive Model と Predictive Model

Propensity を算出するのが予測モデルです。CDH では主に 2 種類を使い分けます。

  • Adaptive Model(適応モデル) — 顧客の反応を取り込みながら継続的に更新される自己学習型のモデルです。Pega の Adaptive Decision Manager が担い、提示しうるすべての Action について Propensity を予測します。Pega の教材では、Action と Treatment ごとにモデルが自動で用意されると説明されています
  • Predictive Model(予測モデル) — 過去データから事前に作ったモデルです。解約や延滞のように、結果が分かるまで時間がかかる事象の予測に向きます。外部の分析ツールで作ったモデル(PMML 形式や H2O のモデル)を取り込むこともできます

Prediction Studio

Prediction Studio は、こうしたモデルや「予測(Prediction)」を作成・学習・管理するための作業領域です。データサイエンティストはここで、モデルの作成から本番での監視までを扱います。

Strategy(ストラテジー)と Next-Best-Action Designer

Strategy は、データ・業務ルール・AI モデルを組み合わせて判断を組み立てる Pega のルールです。CDH では、Next-Best-Action Designer という画面でビジネス構造・制約・Engagement Policy・Arbitration・チャネルを設定すると、その内容から NBA 用のストラテジーの枠組みが自動で生成されます。最初から Strategy を手で組むのではなく、Designer で表現できる範囲は Designer で設定し、足りない部分だけを拡張するのが基本の進め方です。

1 回の判定の流れ

顧客がアプリを開いた、コンタクトセンターに電話をかけた、といった接点が生まれるたびに、CDH は次の順序で判断します。

1 候補 2 ルール 3 AI 4 業務の優先度 5 出力 全アクション 提示しうる すべての行動 絞り込み Eligibility Applicability Suitability AI 予測 Propensity 反応の確率 優先順位付け Arbitration P×C×V×L 最適な行動 チャネルごとに 上位を提示 顧客の反応を学習(Adaptive Model) 左から右へ進むほど候補は減り、最後に順位が付きます
図 Customer Decision Hub の 1 回の判定の流れ
  1. 候補を並べる — Next-Best-Action Designer で定義したすべての Action が出発点です
  2. ルールで絞り込む — Engagement Policy(Eligibility・Applicability・Suitability)と接触ルールで、対象外の Action を外します
  3. AI で予測する — 残った Action ごとに、その顧客が前向きに反応する確率(Propensity)をモデルが算出します
  4. 優先順位を付ける — Propensity・文脈・事業価値・Business Levers を掛け合わせて優先度を求めます
  5. チャネルごとに提示する — 優先度の高い Action を、チャネルに合った Treatment で提示します。いくつ提示するかはチャネルによって異なります

提示した後の顧客の反応(受け入れた、無視した、など)は Adaptive Model に戻り、次の判断の精度に反映されます。ここが、一度作ったら終わりのルールとの大きな違いです。

ケースの中の判断(Decision Table 等)との使い分け

Pega Platform には、CDH とは別に、ケースの中で使う判断の仕組みがあります。代表的なのが Decision Table と Decision Tree です。Decision Table は、条件の組み合わせを表形式で評価し、その結果でケースの振る舞い(金額の算出や、どの経路に進むか)を決めるルールです。

両者は「判断」という点で似ていますが、答える問いが違います。

  • ケース内の判断(Decision Table 等) — 「この申請はどの承認経路に進むか」「手数料はいくらか」のように、条件が決まれば答えが 1 つに決まる判断。毎回同じ入力には同じ答えを返すことが求められます
  • CDH — 「この顧客にいま何を勧めるか」のように、複数の候補を比べて最善を選ぶ判断。顧客の反応によって答えが変わっていくことが前提です

迷ったときは、「答えが規程やルールで一意に決まるか」「候補同士を比べる必要があるか」の 2 点で切り分けると整理しやすくなります。同じ判定を CDH とケースの両方に実装すると、どちらが正しいのか分からなくなるため、判断ごとに置き場所を 1 つに決めておくことが大切です。

体制と役割

CDH の運用では、仕組みを作る人と、日々の施策を回す人の両方が必要です。Pega は CDH の変更管理の仕組みとして 1:1 Operations Manager を用意しており、その教材では次のような役割を挙げています。

  • Business User — 事業側の目的と対象顧客を示し、新しい施策や変更を依頼する
  • Team Lead — 依頼を整理して優先順位を付け、承認して担当に割り当てる
  • Next-Best-Action Specialist — Action や Treatment の作成・更新、チャネルや適格条件の設定を担う
  • Next-Best-Action Designer — ビジネス構造・Engagement Policy・Arbitration など、NBA の判断ロジックそのものを設計する
  • Revision Manager — 判断ロジックに影響する大きめの変更を、レビューと展開の手順に沿って管理する

これに加えて、データサイエンティストが Prediction Studio でモデルの品質を監視し、予測の設計を担います。

関連する Pega の公式資格としては、CDH ソリューションの設計・開発に携わる人向けの Certified Pega Decisioning Consultant と、Pega Customer Decision Hub や Pega Process AI で AI を活用するデータサイエンティスト向けの Certified Pega Data Scientist があります。当社は Certified Pega Data Scientist を保有しており、適応モデル・予測モデルの設計と運用を含めてご支援しています。

導入で最初に決めること

CDH の導入では、製品の設定に入る前に、次の点を事業側と合意しておくと手戻りが減ります。

  1. 何を最適化するか — 成約数なのか、解約の減少なのか、顧客満足なのか。Business Value と Business Levers の設計はここから決まります
  2. ビジネス構造(Issue と Group) — Action をどう分類するか。後から変えると、レポートや既存の設定に影響が広がります
  3. 最初のチャネル — 反応がすぐ返ってくるチャネル(Web やアプリ、コンタクトセンターなど)から始めると、Adaptive Model の学習が進みやすくなります
  4. 反応データの戻し方 — 提示した結果(受け入れた・無視したなど)を CDH に返す仕組みがないと、AI は学習できません。チャネル側の連携は早い段階で設計します
  5. ルールと AI の線引き — 規制や契約で決まる条件は Engagement Policy に置き、それ以外の順位付けはできるだけ AI と Arbitration に任せます
  6. 変更の運用 — 施策の追加・変更を誰が依頼し、誰が承認し、誰が反映するか。1:1 Operations Manager の役割分担が参考になります

よくある誤解

「CDH はマーケティングのメール配信ツールである」 配信はあくまで出口の一つです。CDH の中心は「何を出すか」を 1 か所で決めることにあり、インバウンド(Web 訪問やコンタクトセンターへの問い合わせ)とアウトバウンド(メールやプッシュ通知)の両方に同じ判断を届けます。

「AI がすべて自動で決めてくれる」 AI が担うのは主に Propensity の予測です。誰を対象にしてよいか(Engagement Policy)、事業として何を重視するか(Business Value や Business Levers)は、人が決めて設定します。

「ルールを細かく書くほど精度が上がる」 条件で絞りすぎると、AI が比較できる候補が減り、学習の機会も減ります。Eligibility には本当に外すべき条件だけを置き、順位の問題は Arbitration に任せるほうが、結果として説明しやすい仕組みになります。

「Business Levers で調整すれば狙いどおりになる」 優先度は掛け算で決まるため、Levers を大きく動かすと AI の予測が順位に反映されにくくなります。期間限定の施策など、目的を区切った使い方が基本です。

よくある質問

Q. Customer Decision Hub と Next-Best-Action Designer は何が違いますか。 A. Customer Decision Hub は製品全体の名前で、Next-Best-Action Designer はその中の設定画面です。Designer でビジネス構造・制約・Engagement Policy・Arbitration・チャネルを設定すると、判断用のストラテジーの枠組みが自動で生成されます。

Q. Pega Customer Service を使っていなくても CDH は使えますか。 A. 使えます。CDH は Web・メール・モバイル・広告など、コンタクトセンター以外のチャネルにも判断結果を届ける前提の製品です。Customer Service と組み合わせると、オペレーターの画面に NBA を表示する構成が取れます。

Q. 既存の分析チームが作ったモデルは使えますか。 A. Prediction Studio では、PMML 形式のモデルや H2O で作ったモデルを Predictive Model として取り込めます。結果が分かるまで時間がかかる予測は既存モデルを活用し、反応がすぐ返る予測は Adaptive Model に任せる、という組み合わせが考えられます。

Q. ケースの中の Decision Table を CDH に置き換えるべきですか。 A. 置き換える必要はありません。条件で答えが一意に決まる判断は Decision Table などのケース内の仕組みが適しており、複数の候補を比べて最善を選ぶ判断が CDH の役割です。判断の性質に応じて置き場所を決めてください。

まとめ

  • Customer Decision Hub は、顧客一人ひとりに「いま提示すべき最適な行動」を 1 か所で判断する意思決定の基盤
  • Next-Best-Action は、商品起点のキャンペーンを顧客起点・接点ごとの判断に組み替える考え方
  • 判定は「全アクション → Engagement Policy で絞り込み → AI で予測 → Arbitration で順位付け → チャネルごとに提示」の順で進み、反応が学習に戻る
  • 条件で答えが決まる判断はケース内の Decision Table 等、候補を比べて選ぶ判断は CDH と、置き場所を分ける
  • 導入では、最適化の目的・ビジネス構造・最初のチャネル・反応データの戻し方を先に決める

Customer Decision Hub の導入検討や、ケース業務と意思決定の役割分担の設計でお困りの際は、Pega Platform 開発支援 や 無料相談 をご利用ください。Certified Pega Data Scientist の知見をもとに、目的の整理からモデルの運用設計までご支援します。

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