技術ブログ / 読了 約 8 分

Pega のセキュリティを情シスが審査する|導入前チェックリスト

Pega 導入時のセキュリティ審査観点をチェックリスト化。認証・アクセス制御・監査証跡・暗号化・Pega Cloud の責任分界の確認ポイントを整理します。

結論から:審査項目を「責任分界」で仕分けてから証跡を求める

Pega 導入プロジェクトが動き出すと、必ず社内のセキュリティ審査(情シス・セキュリティ部門によるクラウドサービス審査)が入ります。このとき審査が長引く最大の原因は、技術の難しさではなく、「その項目は誰が担保するのか」の仕分けをせずに、すべての質問をベンダーや事業部門に一律にぶつけてしまうことです。

結論を先に言うと、審査の進め方はこうです。

審査項目をまず「プラットフォーム側(Pega Cloud が提供・運用)」「利用者側(導入企業・開発ベンダーが設計)」「境界領域(分担を文書で確認)」の3つに仕分ける。プラットフォーム側は公式の認証・報告書で、利用者側は設計書・設定値で、境界領域は責任分界の文書で確認する。

この仕分けをしてから証跡を求めると、審査の往復(質問→回答→再質問)が最少になります。本記事では、この仕分けの考え方と、審査票にそのまま転記できるチェックリストを提供します。

Pega Cloud セキュリティ審査の責任分界 審査項目をプラットフォーム側(Pega Cloud が提供・運用、公式の認証・報告書で確認)と利用者側(導入企業・開発ベンダーが設計、設計書・設定値で審査)に仕分け、データ所在地・特権管理・ログ保全期間の境界領域は責任分界の文書で双方の分担を確認する図。 審査項目は、まず責任で仕分ける プラットフォーム側 (Pega Cloud が提供・運用) 物理・データセンター/OS パッチ 基盤の暗号化(通信 TLS・保存時) プラットフォームの脆弱性対応 → 認証・報告書など公式情報で確認 利用者側 (導入企業・開発ベンダーが設計) SSO 連携(SAML/OAuth)の設計 RBAC・ABAC のアクセス制御設計 監査証跡の範囲・ログ設計 → 設計書・設定値を審査で確認 境界領域:データ所在地・特権管理・ログ保全期間 → 責任分界の文書で双方の分担を確認する 仕分けてから証跡を求めると、審査の往復(質問→回答→再質問)が最少になる
図:Pega Cloud セキュリティ審査の責任分界。プラットフォーム側は公式の認証・報告書、利用者側は設計書・設定値、境界領域は責任分界の文書で確認する。

なぜ「実装レビュー」ではなく「導入前審査」の視点なのか

当ブログではこれまで、SSO 認証の設計ABAC によるフィールドレベルのアクセス制御監査証跡の設計といった「作る側」のセキュリティ設計を扱ってきました。本記事は角度を変えて、導入可否を判断する側(情シス・セキュリティ部門)の審査の視点で整理します。

審査で見るべきは「どう作るか」ではありません。何が担保されているか・誰が責任を持つか・証跡は何かの3点です。この3点が曖昧なまま質問票を送ると、「ベンダーに確認します」の往復だけで数週間が溶けます。逆にこの3点で構造化されていれば、Pega の審査は一般的な SaaS 審査のフレームにきれいに収まります。

責任分界の考え方(Pega Cloud の場合)

プラットフォーム側:公式の認証・報告書で確認する

Pega Cloud(Pega が運用する SaaS 型の提供形態)では、物理データセンター、OS・ミドルウェアのパッチ適用、通信経路の TLS 化や保存データの基盤暗号化、プラットフォーム自体の脆弱性対応といった基盤そのものの仕組みは、プラットフォーム側の責任範囲です。この分担自体が Pega 公式ドキュメントに「Pega Cloud Responsibility Model(責任共有モデル)」として整理されているため、審査資料の根拠として提示できます。

この領域を審査する方法は、設計書の査読ではなく第三者認証・報告書の確認です。SOC 2 や ISO 27001 といった認証・報告書の取得状況は更新されていくため、本記事で「取得済み」と断定はせず、審査時点で Pega 公式のコンプライアンス関連ページ・最新ドキュメントを参照して確認する建付けにしてください。確認の起点は Pega 公式の Trust Center(https://www.pega.com/trust)と docs.pega.com の Pega Cloud セキュリティ関連ページです。審査票には「確認日」と「参照した文書名」を残すのがポイントです。

利用者側:設計書・設定値を審査する

一方、次の項目はプラットフォームが機能を提供し、利用者側がそれをどう使うかを設計する領域です。「SaaS だから安全」は、この領域には一切適用されません。

  • 認証 — 社内 IdP との SSO 連携(SAML 2.0 / OAuth 2.0・OIDC)をどう構成するか。ローカル認証(ID/パスワード直接ログイン)を残すか、残すなら誰に・いつまで許すか
  • 認可 — ロールベース(RBAC)で職務分掌を表現し、属性ベース(ABAC)で「同じ画面でも担当外のデータは見せない」といった行・フィールド単位の制御をどこまで作り込むか
  • 監査証跡 — 業務データの「誰が・いつ・何を変更したか」をどの範囲で記録するか。監査対象フィールドの選定はアプリ設計そのもの
  • 暗号化(追加分) — 基盤暗号化に加えて、マイナンバー等の機微項目に属性レベルの追加暗号化を掛けるかどうか

境界領域:分担を文書で確認する

データ所在地・特権管理・ログ保全期間のように、プラットフォームと利用者の双方にまたがる項目が境界領域です。ここは「どちらかに聞けば済む」項目ではないため、責任分界を文書で確認します。詳しくは後述の「よくある指摘と回答例」で扱います。

審査チェックリスト(そのまま審査票へ)

領域確認項目主な責任求める証跡
認証社内 IdP と SSO(SAML 2.0 / OAuth 2.0・OIDC)連携するか。ローカル認証の残存範囲と期限利用者側認証方式設計書・IdP 連携設定
認可RBAC で職務分掌を表現できているか。行・フィールド単位の制御(ABAC)の要否と適用範囲利用者側アクセス制御マトリクス(ロール×操作×データ)
監査証跡業務データの変更履歴(誰が・いつ・何を)の記録範囲。証跡の改ざん耐性と保管先利用者側+基盤監査対象フィールド一覧・保管方式
暗号化(通信)経路の TLS 化。外部システム連携経路の暗号化プラットフォーム側公式ドキュメント・報告書(確認日を記録)
暗号化(保存)保存データの基盤暗号化の有無。機微項目への追加暗号化の要否基盤+利用者側暗号化方式の記載・追加暗号化の対象項目一覧
脆弱性対応基盤パッチの適用主体とサイクル。アプリ側カスタムコードの脆弱性診断の計画双方(分界に沿う)責任分界文書・診断計画書
ログ取得取得できるログの種類(認証・操作・システム)。保全期間。SIEM 等への外部転送可否と方式境界領域ログ一覧・保全期間・連携方式の確認記録

このまま行を審査票に転記し、「証跡」列に受領した文書名と確認日を埋めていけば、審査の抜け漏れと往復を同時に防げます。

審査でよくある3つの指摘と回答の準備

指摘1:「データは国内に保管されるのか」

データ所在地は境界領域の代表です。Pega Cloud は複数リージョンでの提供があり、提供リージョンは公式ドキュメント(Deployment regions for Pega Cloud)で公開されています。回答の型は「契約で指定するリージョンを確認し、契約書・公式文書ベースで回答する」です。「たぶん国内です」という口頭回答は審査で最も嫌われます。事業部門とベンダー任せにせず、契約前の段階でリージョンを確定させ、文書の該当箇所を証跡として添付できるようにしておきます。

指摘2:「特権 ID は誰が持ち、どう管理されるのか」

特権管理は2層に分けて回答するのが型です。(1)プラットフォーム運用者側のアクセス統制はプラットフォーム側の責任範囲であり、認証・報告書の確認事項。(2)アプリケーション管理者権限(全件検索・設定変更ができる社内ロール)は利用者側の設計事項であり、付与の最小化・定期棚卸し・操作ログの取得をアクセス制御設計に含めて回答します。この2層を混ぜて回答すると、審査側が「結局誰の責任か」を判断できず差し戻しになります。

指摘3:「ログの保全期間は社内基準(例:1年)を満たすか」

ログ保全期間も境界領域です。一般に、プラットフォーム側が保持する基盤ログと、アプリ側の監査証跡(業務データの変更履歴)では保持の考え方が別であることをまず説明します。そのうえで、社内基準に対して「どのログを・どちらの仕組みで・何年」満たすかを対応表で回答します。基盤側の保持期間だけで社内基準を満たせない場合は、ログを外部のログ基盤(SIEM 等)へ転送して自社側で保全する設計を回答に含めるのが定石です。Pega Cloud では外部ストレージ・監視基盤へのログストリーミング機能が公式に提供されています(接続先サービスや方式は契約・バージョンにより異なるため、公式ドキュメントで確認を)。転送方式の詳細は契約前に確認しておきます。

よくある失敗

失敗1:「SaaS だから安全」で利用者側の審査を素通しする

認可設計(RBAC/ABAC)や監査証跡の範囲は、プラットフォームがどれだけ堅牢でも利用者側が設計しなければ存在しません。ここを審査せずに通すと、リリース後に「退職者アカウントが残っている」「担当外の顧客データが検索できる」という、プラットフォームとは無関係のインシデントが起きます。

失敗2:オンプレ前提のチェックリストをそのまま適用する

逆方向の失敗です。「OS のパッチ適用手順書を提出せよ」「サーバー室の入退室記録を見せよ」といったプラットフォーム側の項目を利用者・ベンダーに要求すると、回答不能な質問が審査を空転させます。SaaS 型の審査では、この種の項目は第三者認証・報告書の確認に置き換えるのが正しい運用です。

失敗3:監査証跡を「後で設定すればいい」と先送りする

監査対象フィールドの選定は、データモデルと一体のアプリ設計そのものです。リリース後に「この項目も監査対象にしたい」と言っても、過去に遡って履歴は生成できません。審査の段階で監査範囲の設計書を証跡として求めることが、後付けコストの最小化に直結します。

まとめ

  • Pega のセキュリティ審査は、項目をプラットフォーム側/利用者側/境界領域の3つに仕分けてから証跡を求めると最短で終わる
  • プラットフォーム側は公式の認証・報告書(SOC 2 等の取得状況は審査時点の公式情報で確認し、確認日を記録)、利用者側は設計書・設定値、境界領域は責任分界の文書で確認する
  • 認証(SSO)・認可(RBAC/ABAC)・監査証跡は利用者側の設計事項。「SaaS だから安全」は通用しない
  • 頻出指摘のデータ所在地・特権管理・ログ保全期間は境界領域として回答の型を準備しておく
  • チェックリストの「証跡」列に文書名と確認日を残す運用が、審査の往復を最少にする

Pega 導入のセキュリティ審査対応・設計でお困りの際は、Pega Platform 開発支援無料相談 をご利用ください。Pega 認定資格の最高位 LSA(Lead System Architect)を保有するコンサルタントが、審査回答の準備からアクセス制御・監査証跡の設計までご支援します。

関連リンク

RELATED

関連記事

Pega データページの種類とスコープ設計|Thread / Requestor / Node の使い分け

「なんとなく Thread スコープ」で作られたデータページが、外部連携の呼び出し回数を無駄に増やしていませんか。本記事ではデータページの種類(Read-Only / Editable / Savable)とスコープ(Thread / Requestor / Node)の組み合わせを、キャッシュ範囲・データ鮮度・再読み込みの観点から使い分ける判断軸を、LSA 目線で整理します。

記事を読む

Pega DX API で独自フロントを作る判断|標準 Constellation UI との使い分け

Constellation は DX API 経由で UI メタデータを受け取りクライアントで描画する。この API は独自フロントの構築にも開放されているが、わずかな見た目調整のために独自フロントへ踏み込むと保守とアップグレードの負担が跳ね上がる。どこまで OOTB で、どこから DX API か——設計判断の分岐点を扱う。

記事を読む

Pega 保守費はなぜ高くなるのか|費用構造と削減の実践アプローチ

Pega 保守費の内訳を分解し、高くなる構造的要因(カスタム過多・体制固定)と、削減の実践アプローチ(標準回帰・体制見直し・部分内製化)を解説します。

記事を読む

Pega 導入のご相談はお気軽に。

Pega Customer Service / Pega Constellation UI / Pega Platform の各ソリューションについて、無料でご相談を承ります。